CBT

大学教育のあるべき姿と大学入試へのオンラインCBT導入

大学教育のあるべき姿について話をする時に重要な鍵となる三つの視点があります。教学DXの推進、教学IR、大学の三つのポリシーです。今回はそれらの視点から大学教育の現状や課題を知ることで、その中でCBTができることは何かを考えます。


少子化にともなう学生数の減少、デジタル化による教育環境の変化などに伴い、今、大学には変革が求められています。

予測不可能な時代を生き抜く人材を育成するために、「学修者本位の教育への転換」と「学びの質の向上」を目指して様々な取組が進められており、その成果を客観的に評価しながら、より良い学修環境を提供し一人ひとりの成長を支えていくことが重要です。

大学教育のあるべき姿について話をする時に、鍵となる重要な視点として、以下の三つがあります。

  1. 教学DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進
  2. 教学IR
  3. 大学の三つのポリシー

ここでは、上記三つの視点から大学教育の現状や課題を知り、CBTが貢献できることを考えます。

 

CBTができること

教学DXの推進、教学IR、大学の三つのポリシーの全てに言えることが、デジタル技術による変革が重要な鍵になっているという点です。

従来より、教学においては管理運営に、紙ベース、デジタル、対面、オンラインの形式が併用されていますが、今後は急速にデジタル化、オンライン化を進めることが求められているのです。

その中でCBTができることとして入学者の選抜試験(大学入試)や学生の定期試験のデジタル化が考えられます。

 

大学入試へのCBT導入のメリット

  • 採点・集計の負担や費用の削減

CBT(Computer Based Testing) 試験は、PBT(Paper Based Testing) と比較し、受験票や問題用紙・解答用紙などの紙の管理、試験実施に伴う会場及び人員の管理が少なく済みます。

解答を設定した問題は瞬時に自動採点され、結果をCSVでダウンロードすることができ、合格発表などに活用できます。

  • 出題の幅の拡張

CBT試験は、音声や動画などを利用した出題をはじめ、学習力、思考力、コミュニケーション能力などのPBTでは評価が難しい領域において、これまでであれば考えられなかったような新しい形の問題作成を実現できます。

さらに、CBT試験では、アクセシビリティを考慮した機能を活かすことで、多様な(受験者の)評価を可能にします。

  • 教学DXの一歩に

大学が取り組むべき「教学マネジメントのデジタル化」の一つとして、管理運営の効率化に貢献します。

また、アドミッション・ポリシーの対外的な評価に関わる大学入試において、CBTを導入し、大学の個性や特色を反映した選抜を実現することは、内部質保証に繋がります。

ここ数年はコロナ禍での制約もあったことで大学入試、特に個別試験や総合型・学校推薦型選抜でオンラインやCBTでの試験を導入した大学が一部にあり、その試みは先行事例として紹介されています。

出典:
日本の大学入試にTAOが採用された事例を大学入試センターが公表しました

 

大学の個別試験でのオンライン入試導入のメリット

  • 受験のための移動負荷の軽減

  • 感染リスクや災害リスクの低減

  • より多くの受験者に受験機会を提供できる

令和3年度の調査では、何らかの入学者選抜試験(一般選抜、総合型選抜、学校推薦型選抜、その他の選抜)にてオンラインを活用した入試を実施した大学は2割前後に及んだことが報告されています。

出典:
新文部科学省サイトより新型コロナウイルス感染症に対応するための個別試験におけるオンラインの活用

オンライン入試にCBTを導入している事例はまだ多くはありませんが、WBT(Web Based Testing)やIBT(Internet Based Testing)を活用することにより、オフライン受験及びオンライン受験という選択の幅も広がります。

受験者を一つの場所に集める必要がなく、サテライト会場など大学以外の場所からの受験が可能になるということは、受験者と大学の双方にとって負荷の軽減につながります。

 

教学DXの推進

大学がその教育目的を達成するために行う管理運営は「教学マネジメント」と呼ばれ、大学の内部質保証の確立に密接に関わるものです。

文部科学省のガイドラインでは、大学の三つのポリシーを運用し、大学教育を充実させることが、全学的な規模での教育組織としての「教学マネジメント」を確立するにあたり、最も重要なものとされています。

教学マネジメント-1

「教学マネジメント指針概要」(文部科学省)をもとに株式会社インフォザイン作成

出典:
文部科学省サイトより「教学マネジメント指針」(令和2年1月22日 大学分科会)

デジタル化やAI(人工知能、アーティフィシャル・インテリジェンス、 artificial intelligence)の普及により産業構造も変化する中、教学のDX(デジタルトランスフォーメーション)も迫られています

各大学は「教学DX推進室」の設置、オンライン授業、学習成果の可視化、学内業務の効率化など、それぞれに教学DXに取り組んでいます。

教学DXにより叶うこととして考えられうるのは、大学の管理運営におけるスピードアップ、手間を減らす、専門性を組織全体で共有できる、AIを活用した学生サポートの標準化などがあり、授業は担当教員だけでなく大学全体でよくしていくものという意識改革にもつながっていきます。

また、令和3年度には40校余りの大学が、「デジタルを活用した大学・高専教育高度化プラン(Plus-DX)」を活用して「学修社本意の教育の実現」、「学びの質の向上」のためのデジタル技術を取り入れた環境の整備を進めました。

出典:
文部科学省サイトより「デジタルを活用した大学・高専教育高度化プラン」実施機関の取組概要について

この流れから、学修管理システム(LMS)による学生データの一括管理や、AI技術による解析、VR(virtual reality)を用いた実験・実習の導入などが今後のスタンダードになっていくことが期待されています。

 

教学IR

教学IR(インスティチューショナル・リサーチ、Institutional Research)とは、大学内の様々な情報やデータを収集、蓄積、分析、報告し、そのデータを活用することでエビデンスに基づいた結果から現状の把握、課題への対応、意思決定や改善施策の実行を支援するためのものです。

アメリカの大学では1960年代から、大学経営を健全なものにするために導入されていた活動ですが、日本でも大学内部質の向上と教学マネジメントを支える活動として、この10年ほどで多くの大学が実践するようになっています。

教学IRを活用することで、学生の学習成果、教授の研究成果、受験生や卒業生の動向を始め、経営・財務情報などのデータを可視化し、大学の正確な状況を対外的に情報公開することが可能になります。

教学IRはFD(ファカルティ・ディベロップメント、Faculty Development)SD(スタッフ・ディベロップメント、Staff Development)と共に、教学マネジメントを支える基盤となります。

先に述べた三つのポリシーの策定・運用にはこの教学IRの充実が重要とされています。

効果的な教学IRを実践するためには、データを整え、適切な指標を設定し、IR活動を展開する組織体制をつくることが必要です。

しかしながら、現状では、この教学IRの実践にはデータサイエンスについての専門的なノウハウや人材が必要であり、また、大学のポリシーや大学経営にも精通していることが求められることに加え、ITへの投資も必要となるといったことから、課題を抱えている大学は少なくありません。

 

大学の三つのポリシー


文部科学省は「三つの方針に基づいた大学教育の質の向上のための取組」を進めています。

各大学に対して、教学経営において一貫した理念の下に三つのポリシーを策定・公表することが提言され、ガイドラインが定められ、平成29年(2017年)度より義務付けられています。

三つのポリシーを一体的に策定し、それを公開することにより、例えば、高校生が大学での授業や大学入試の具体的な方針を知ることができます。

また、大学の個性や特色を具体的に、対外的に示すことにより大学は第三者機関が大学を評価することが可能になります。

つまり、三つのポリシーは、大学自身はもとより、入学希望者、学生、保護者、高等学校関係者、さらには社会にとっても大きな意義があるものなのです。

1. 入学者受入れの方針(アドミッション・ポリシー、AP)

各大学が、当該大学・学部等の教育理念、ディプロマ・ポリシー、カリキュラム・ポリシーに基づく教育内容等を踏まえ、入学者を受け入れるための基本的な方針であり、受け入れる学生に求める学習成果(学力の3要素※)を示すもの。
※(1)知識・技能、(2)思考力・判断力、表現力等の能力、(3)主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度

「入学」つまり「大学への入り口」に関する方針であり、大学はどのような学生を求めており、そのためにどのように選抜を実施するのかまでを、具体的に示します。

大学入試の選抜方法までもが社会から評価を受ける対象になることで、大学入試改革とも大きく関連します。

2. 教育課程編成・実施の方針(カリキュラム・ポリシー、CP)

ディプロマ・ポリシーの達成のために、どのような教育課程を編成し、どのような教育内容・方法を実施するのかを定める基本的な方針。

「入学してから卒業するまでの間」つまり「大学の中身」にどのように学ぶのかを、具体的に示します。

例えば、ディスカッションやグループワークなどを通して学生が能動的に学習を行うアクティブ・ラーニングの充実を図るなど、大学教育の質的転換が求められています。

3. 卒業認定・学位授与の方針(ディプロマ・ポリシー、DP)

各大学がその教育理念を踏まえ、どのような力を身に付ければ学位を授与するのかを定める基本的な方針であり、学生の学修成果の目標ともなるもの。

「卒業」つまり「大学の出口」に関する方針であり、最終的にどんな力を身に付けさせて卒業させるのかを、具体的に示します。

学生の卒業後の進路について、顕在・潜在ニーズを十分に踏まえて策定することが求められており、大学の内部質保証のためのPDCAサイクルはこの方針が起点となります。

(出典)
文部科学省サイトより資料1-2 三つのポリシーの策定と運用に係るガイドライン(骨子の素案)

以上の三つのポリシーはデータやエビデンスに基づいた具体的な内容で一貫性あるものとして策定・公表することが求められ、計画、実行、評価、改善を繰り返しながら大学教育の質的転換をしていくものとされますが、策定・公表されたポリシーに曖昧さや表面的な部分が残ったり、また三つの相互関連性が弱いなどの課題が依然としてあるようです。



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ITと教育の分野でのイノベーターとしてのインフォザイン

「株式会社インフォザイン」は、東京 上野にオフィスを構え、教育とテクノロジーを融合させたEdTech分野でビジネスを展開しています。

「オープンソースとオープンスタンダードを活用し、教育の未来を創る」ことを目指し、特に力を入れているのは、ルクセンブルクのOAT社が開発したWebベースでアセスメント・テストを実施するためのCBT(Computer Based Testing)プラットフォーム「TAO」をベースとした新サービスの開発と提供です。

オンラインアセスメントのためのSaaS版CBTプラットフォーム「TAOクラウドJP」をはじめ、学力調査、大学入試、各種資格・検定試験などのCBT化に実績のあるアセスメントサービスを提供しています。

また、教育DXを推進するため、教育に興味を持っているITエンジニアはもちろん、教育分野に課題意識を持っている人材も広く募集しています。
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