伊豆芳人(いず・よしひと)㈱トラベルジップ顧問、ボーダーツーリズム推進協議会会長。
―― ボーダーツーリズム推進協議会について、設立の経緯や活動内容を教えてください。
伊豆氏:世界の学問の中に『ボーダースタディ(国境学)』というものがあります。日本は海に囲まれているので、国境の意識は薄いですよね。一方、海外は陸続きなので、歴史や紛争で国境線が変わったり、国境に関するトラブルが絶えません。
実は日本でも、北海道大学や九州大学、琉球大学などで、数は少ないですがボーダースタディの研究がなされています。先生方が国境にまつわる経済や交流、人口問題などを研究されており、21世紀に入ってからはそこに『観光(ツーリズム)』もテーマとして加わりました。
大学の先生方はツーリズムの専門家ではありませんので、当時、観光の仕事をしていた私に『ボーダー地域の観光活性化やPRに取り組んでくれませんか』と声がかかりました。それをきっかけとして、大学の先生方や国境地域の自治体、そして現地の観光業者の方々と一緒に、2017年にこの協議会を設立したという背景があります。
国境の島というと、どうしても『行き止まり』と思われがちですよね。そうではなく、例えば沖縄なら東南アジアへの『ゲートウェイ』ですし、稚内もロシアと関係が良ければ、サハリン経由でヨーロッパまで繋がっています。そのように『行き止まり』ではなく『ゲートウェイ』なのだということを強くアピールしていくのが、我々の大きな目的です。
―― その活動の中で、今回「ボーダーツーリズム検定」を始められたのは、どのような思いからだったのでしょうか?
伊豆氏:世の中にはすでに世界遺産検定や、最近ですと国立公園検定など、いろいろな検定があります。我々としては、まずはボーダーツーリズムの楽しさや、国境地域の魅力などを、多くの方に知ってほしいという思いがあります。
海の向こうに韓国が見えたり、サハリンの基地が見えたり。本当は船で渡って、向こうから日本を見てみたり。そのような経験はなかなかできないですよね。国境の島だからこその文化や歴史、美味しい食べ物もたくさんありますが、少し遠すぎることもあって、それほど知られていません。
奥が深いので、1日2日の旅行ではすべてを知ることは難しいでしょう。だからこそ、まずは検定を通じてその奥深さや魅力を知ってほしいと思います。今回はその第一弾として、まずは長崎県の対馬から『対馬検定』をスタートさせました。
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ボーダーツーリズム検定に合格すると発行されるオープンバッジ。
――検定の合格証明として、今回オープンバッジファクトリーを採用いただきました。導入の経緯や決め手を教えてください。
伊豆氏: 実は、私はオープンバッジのことは全く知らなかったのです。
検定を始めたいと思って、世界遺産検定などはどのように運用しているのかなど、3年ほど前からいろいろ調べていました。試験はオンラインや会場で受験できるのですが、合格した人に紙で『認定証を送ります』と言うものが多いですね。
紙の合格証を送って、受け取った人はどうするのだろう?と想像してみました。もちろん、それを持っていると旅行会社に入りやすいといったメリットはあるのかもしれないですが、ずいぶんアナログな方法だなと。
そんな話をインフォザインの方としていたところ、『オープンバッジ』というデジタルの仕組みを教えていただいたのです。むしろ、バッジを発行する仕組み(アンケート機能)を使って検定試験を作ったらどうですか?と言う話に進展しました。
つまり、我々の場合は『バッジファースト』なのです。デジタルなバッジを発行するところから入って、検定の仕組みを作っていきました。
今、発行作業を始めて間もないのですが、申請があった際は、対馬検定の感想などが書かれているアンケートも見たいので、自動ではなくて一度私が手動で承認をして発行をしています。今のところ1日5件ぐらいなのでなんとかなってます。
そして、合格した方にも不合格だった方にも、私が作った30問すべての『ミニ解説』のURLを送っているのですよ。「検定で何点取ったから偉い」のではなく、我々は対馬のことをきちんと勉強して知っていただくことが目的ですので。そのような丁寧なやりとりを、今はまだ実証実験のような方法で運用しています。そのうち私の手に負えなくなるのを期待してるのですけれどね。
―― 検定を開始されてみて、周りの反応や変化はありましたか?
伊豆氏:先月、対馬でボーダーツーリズムの全国大会がありまして、小笠原の村長さんから与那国島の町長さんまでみなさまいらしていました。そこで『こういうの始めたんです!』と発表したら、拍手が起こりましたよね。『よくやってくれました』と。やってよかったなと思いました。
また、我々の協議会でメルマガを配信しているのですが、なかなか会員が増えなくて困ってたのが、検定を始めてから会員登録が増えましたよ。少しずつですが、手応えは感じてます。
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―― 逆に、検定をスタートされるにあたって苦労された点はありますか?
伊豆氏:設問作りです。30問作ったのですが、これが大変でした。例えば、食べ物の問題で『ヒジキ』を出題しました。対馬というと10年前までヒジキの生産量日本一だったのです。ところが、対馬の方から『数年前から暖流の影響でヒジキが採れなくなって、今年は収穫量ゼロだ』と言われて。そうすると問題にならないじゃないですか。
国境の島は、海流の影響が歴史にも文化にもすごく影響しています。それもあり、海流の問題は出したかったわけなのですが、情報の正しさとか鮮度をどう高めるか。
そこで、今回のバッジはあえて『2025』という年号を入れました。来年は『2026年版の対馬検定』を作ろうと考えています。我々のテストは落とすためのテストではなくて、『学びになるためのテスト』なのです。そこが難しいところであり、大事なところだと思っています。
――最後に、今後の展開や夢をお聞かせください。
伊豆氏:当面は、対馬の次に五島、与那国、礼文と、他の国境地域でも検定を作っていきたいと考えています。
そして、夢としては、バッジを持ってる方が現地に行った時に、何か特典やサービスを受けられるようにしたい。今、対馬とも検討を始めていますが、例えば観光協会でバッジを見せたらマップをくれるですとか、記念品がもらえるですとか。少しでも対馬の観光活性化に役立ちたいなと思います。
さらに『極地連携』と呼んでいるのですが、稚内も、礼文も、与那国も、対馬も、日本中の国境地域が連携していく。検定のバッジをたくさん持ってる人には、『ボーダー検定 マイスター』のような認定をして、何かプラスアルファのメリットがある仕組みを考えてます。
特に、地元の子どもたちに検定を受けて欲しいです。今、対馬の教育委員会にもお願いしているのですが、子どもたちにはもっともっと自分たちの島のことを知ってもらいたい。
そして、ふるさと納税。多くの方は返礼品目当てなところがあると思うのですが、その前に、まずその町を知ってもらいたいと思うのです。ホームページの入り口に検定があって、町を知ってから納税しましょう、といった取り組みも、今、関心を持ってくださっている自治体があります。
まずは住んでる方が自分たちのところを良く知って、自信を持ってほしい。そういう地域創生にも繋げていければいいなと思ってます。
対馬のような国境離島は、物理的な距離があるため、頻繁に訪れることが難しい場合もあります。しかし、検定を通じて知識を深めていただくことで、現地には行けなくても「精神的なファン」つまり関係人口を増やすことができるのではないかと感じました。
合格の証明としてオープンバッジを発行することにより、合格者がSNSなどでバッジを獲得したことを公開していただければ、対馬を、ボーダーツーリズムを宣伝することにも繋がります。
より多くの方が、合格証を獲得していただけるよう、我々も応援させていただきたいと思います。
伊豆様、熱い想いをお聞かせいただきありがとうございました。
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