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「やればできる、なんとかなる」を積み重ねる。まるオフィス加藤拓馬さんに聞く、気仙沼発・多様な学びの現場とオープンバッジ

作成者: INFOSIGN|2026/08/27 8:31:58

目指すのは
10代が「夢中」を見つけられる社会

宮城県気仙沼市を拠点に、10代の「夢中」を応援する一般社団法人まるオフィス。代表理事の加藤拓馬さんは、東日本大震災を機に東京から気仙沼へ移住し、地域と学校をつなぐコーディネーターとして15年にわたり活動されています。2026年3月からは、まるオフィスが主催するワークキャンプの参加証として、インフォザインの提供するオープンバッジファクトリーによるデジタルバッジの発行もスタートしました(関連記事:まるオフィスがオープンバッジファクトリーを導入)。

2026年8月30日に東京大学伊藤謝恩ホールで開催される「多様な学びカンファレンス」でその取り組みをポスター展示で発表するにあたり、加藤さんならではの多様な学び支援の視点で、まるオフィスの取り組み・気仙沼の学びとオープンバッジをめぐる現在地とこれからをお聞きしました。あわせて、実際にワークキャンプに参加した高校生・大学生の生の声も紹介しています。

多様な学びに向き合う教育関係者の皆さまに、気仙沼からのひとつの事例としてお届けします。

Q. まるオフィスの現在の活動について教えてください。

活動は大きく2つに分かれています。

1つ目は、通信制高校に通う高校生を主な対象としたボランティア合宿プログラム「01ワークキャンプ/ちょいワークキャンプ」です。まさに今、オープンバッジを発行させていただいている取り組みです。仙台や気仙沼、能登の被災地などに来てもらって、地域でボランティアをしながら合宿をする。一週間の本格的な合宿「01ワークキャンプ」もあれば、二泊三日の「ちょいワークキャンプ」もあります。三食自炊・雑魚寝の共同生活の中で、地域課題に一緒に取り組んでいます。

2つ目は、気仙沼の自治体・教育委員会と連携した「気仙沼学びの産官学コンソーシアム」。公立・私立を含む中高生の、地域での探究的な活動を応援するNPOとしての取り組みです。まるオフィスは、この2本柱で動いています。

このうち、多様な学びカンファレンスに来られる皆さんに特にお伝えしたいのは、1つ目の通信制高校生向けの合宿プログラムのほうです。この事業は、まさに今の「多様な学び」の現場で見過ごされがちな層に向けた取り組みだと感じています。

Q. なぜ「10代が夢中を見つけられる社会」というビジョンにたどり着いたのか?

まるオフィスの原点は、東日本大震災からの復興まちづくりです。復興を考えたとき、私自身も当初はそうでしたが、地域の大人からは当然のように、「将来子どもたちに帰ってきてほしい」「地元にUターンしてほしい」「復興を担う人材になってほしい」という声が出てきます。人材の「材」の字がついた、目的的な人という発想ですね。

でも僕は、学びの魅力とは本来「無目的性」にあると思っています。地域を担うために学んでいるわけでも、日本を担うために学んでいるわけでもない。結果としてそうなってくれるといいなとは思うけれど、学び自体は無目的なもの。

だからこそ、10代のうちに夢中になれるものに出会えるかどうかが、その後の20代・30代の選択肢の幅を広げるんだろうな、と。「帰っておいで」ではなく、「あなたはこれから何者にでもなれるんだよ」と伝えたい。あえて「こういう人になってほしい」を言わずに、10代のうちに夢中を見つけられる社会になればいいな——そういう表現にしています。

Q. 気仙沼という地域の、他にはない魅力はどんなところにありますか?

「大人が探究をしてきた地域」だというところですね。復興って結局何だったのかと聞かれたら、僕は今なら「大人の本気の探究だった」と答えます。

うちの集落は高台に行った方がいいのか、堤防は立てた方がいいのか、創造的な復興って一体何なんだ、自分の事業所は、自分の生き方は——。このまちにとって、自分たちにとって、何が豊かさなのだろう、というところを、それぞれが本気で探究した10年、15年だったんです。

だから、大人たちが高校生や若者、子どもの探究に対しても、すごく寛容なのです。「やってごらん、失敗してもいいからまずやってごらん」と言える大人が本当に多い。これは気仙沼の大きな魅力で、僕らのような外から入ってきた人間が活動できている理由でもあります。

その中で、まるオフィスがフィールドにしているのは、どちらかというと「社会教育」と呼ばれる領域です。学校教育の可能性はもちろん信じつつ、地域と学校をつなぎながら、授業外で子どもたちがどう地域の大人と接点を持って、夢中を見つけていくのか。ここをまちとして取り組んでいきたい、というのが今のスタンスです。

Q. 産官学コンソーシアムのような多主体連携で、難しかったこと・逆にコツはどこにありましたか?

コレクティブインパクトのコツと呼ばれるようなことに近いんですが、「あまり目的を合わせすぎない」ということです。産業界と高校と行政で目的をぴったり合わせようとすると、まず合わない。産業界は「将来帰ってきてうちの会社に入ってほしい」というのが本音としてある。だからこそ組む理由がある、という側面もあります。

でも、「10代のうちに地元でめちゃくちゃ面白い経験・楽しい経験をする」ということ自体は、学びにとってもいいし、地域への愛着やエンゲージメントを高めるうえでもいい。目的は別だけど、方向は一緒。そこをあえてふわっとさせて、力をコレクティブにしていく。ここが難しいところであり、逆にコツだったなと感じています。

対話を重ねていくと、キーマン同士の信頼関係が生まれてきますし、「加藤がやってることなら」とか、高校生の感想を聞いて「なるほど」と言ってもらえたりする。お互いに少しずつシンクロしてくる感覚があります。

Q. 仕組みづくりで、まるオフィスが大切にしていることは?

シンプルに2つあります。1つは、大人が熟議・対話できる「座組」があるかどうか。もう1つは、そこにガソリンとなる「予算」がちゃんとあるかどうか。この2つがないと、自治体単位でこの仕組みを回すのは、なかなか難しいと思っています。もちろん予算がなくてやっているところもたくさんありますが、持続可能性を考えると、この2つは大切です。

気仙沼では、国の地方創生の補助金や、最近ではふるさと納税の基金などを組み合わせて予算を確保しています。かつては地域の自治力——子ども会や自治会の青年部が担っていた社会教育の部分が、共働き化やPTA活動の激減、少子化で成り立たなくなってきている。だからこそ、僕らのようなコーディネーターと予算をセットで回していく必要があると感じています。子どもがどうこうできる部分ではないので、大人がしっかり準備してあげなきゃいけないところですね。

数字でいうと、気仙沼学びの産官学コンソーシアムは発足2年で延べ1,200名の高校生が参加しています。探究学習コーディネーターが小中学校におよそ200回/年訪問し、高校生マイプロジェクトアワードは全国大会6年連続出場。ナミカゼ生(探究プログラム参加者)へのアンケート(n=26, 2025年3月)では、「社会を変えられる」と答えた生徒が84.6%(日本の高校生平均18.3%)、「意欲的」83.3%(町村郡26.7%)と、全国平均と比べても圧倒的な差が出ています。

Q. 「多様な学び」というテーマで、加藤さんが今いちばん向き合っているのはどのような層ですか?

通信制高校に通う子たちの中でも、「まだ名前がついていない層」がいる、ということです。ここは、多様な学びカンファレンスの皆さんに一番伝えたいところですね。

小学校からずっと不登校だったわけでもなく、医療的・福祉的なサポートが必要なわけでもない。ただ、高校のクラス替えで担任と合わなかった、中学校でクラス替えしたらそのクラスが合わなかった——そういう「一回のつまずき」で全日制を諦めて、通信に転籍した子たちです。

彼らは、むしろアクティブなんですよ。コミュニケーション力も高い。平日は学校に行っていないから、自然とずっとバイトをしている。コンビニのシフトリーダーをやっていたりして、大学生みたいな感覚です。特殊なサポートは不要で、表現が難しいですが「普通」なんです。ただ、通信への心理的ハードルが下がっているからこそ、彼らは通信を選べる。

でも、彼らが本当に求めているのは、友達を作りたい、文化祭をやりたい、青春したい、といったこと。「思っていた高校生活とちょっと違うな」というモヤモヤを、ファミレスやコンビニのバイトをしながら抱えている。やりたいことが見つからない、大学進学どうしよう、そもそも大学行って何やりたいんだっけ——そういう悩みを抱えている。退屈しているんですよ。

社会として、彼らが求めている「体験」を担保できていない。学業は通信でしっかり担保しましょうというのはいいんですが、学業以外の体験を、社会教育の領域でどう担保していくのか。これは不登校の問題とはまったく別の、まだ名前がついていない問題だと僕は思っています。

そして、彼らに共通しているのは、能力もコミュ力もあるのに「自信がない」ということ。だからワークキャンプのテーマは、「やればできる、なんとかなる」。これを何よりも伝えたい。そのために、地域があるんです。

Q. 実際に、ワークキャンプに参加した高校生に変化は起きていますか?

はい、明らかに起きています。参加者本人の言葉を、いくつか紹介させてください。

「最初は写真もNGだった子が、"取材を受けたい"に変わった」

気仙沼で通信の子向けの「ちょいワークキャンプ」に2回参加してくれた高校2年生の感想文には、こう書いてありました。

最初の頃は写真に映るのが苦手だったり、取材は受けたいと思いませんでしたが、2回ボランティア活動を行い、自分も積極的にチャレンジしていきたいと思うようになりました。もし次回参加した場合、テレビの方たちが来るのであれば、自分が取材を受けたいです!今回のボランティア活動とても楽しかったですし、前よりもワンランク成長できました。

この子は、初回は写真も取材もNGだったんです。それが、2回参加することでここまで変わる。これがまさに、僕が言い続けている「やればできる、なんとかなる」の実感なんだと思います。

「意外となんとかなった」——テーマを体感した声

「やればできる、なんとかなる」というテーマそのものについても、参加者たちがそれぞれの言葉で語ってくれています。

最初はとても不安でとてもやっていけると思ってませんでしたが、今回のちょいワークキャンプのテーマの通りやればできたし、なんとかなったのですごくいい言葉だと思いました。(高校2年生)

私は最初、小学生と上手く付き合えるか分かりませんでした。ですが「やればできる、なんとかなる」を信じて、小学生と向き合ってみたら意外となんとかなったので、今後もこの言葉を頭に入れて日常生活にも活用していこうと思いました。(高校2年生)

ボランティアに参加すること自体が初めてで不安もあったけど、参加したことでいろんな人と仲良くなれたり、楽しい思い出ができたので一歩踏み出してみることが大切なんだなと思いました。(高校3年生)

知らない人しかいない状態で生活するのは正直不安しかありませんでした。でも、実際あってみたらみんな優しくしてくれるし、聞いているだけでとっても楽しくて、すごくこのちょいワークキャンプにエントリーしてみてよかったな!と思いました。(高校1年生)

「自分から提案できる自分に気づいた」

参加後の自分自身についての気づきを語る声も多く寄せられています。

みんなに言われて気が付きましたが、自分から何かを提案したりすることができ、そういう空間を作れるということに気づけました。(高校2年生)

私は今まで意見をあまり言わずに周りに合わせてきたけど、今回ルールや役割分担をみんなで決めて、なんでも話し合ってみんなで決めることがとても重要なんだなと感じました。(高校3年生)

自分から挨拶することが前よりも少し増えた気がします。(高校2年生)

料理とかでもそうだが、苦手だとしてもやってみたら意外と形になることもあるんだなと思えた。自分だけのことを考えるのではなく周りの人のことを考えて行動することが人と一緒に生活する上で大切なんだと気づいた。(高校3年生)

こうして、「小さな挑戦→できた実感」の積み重ねが、確かに彼らの自己認識を書き換えていく。二泊三日という短い期間でも、確かな変化が起きているのが分かります。

大学生や、複雑な思いを抱えて参加した子の声

一方で、より深い問いを持ち帰ってくれる参加者もいます。ある大学2年生は、テーマの「やればできる、なんとかなる」について、こんな正直な感想を寄せてくれました。

私はもともと「やればできる」という言葉よりも、「やらなければならない」「できなければならない」という感覚で行動することが多いということに気が付きました。どこかで、「できなければこの場にいてはいけない」という気持ちを抱えているのかもしれません。(中略)私の中では「なんとかなる」という言葉よりも、「いつか振り返った時に、いい経験だったと思える日が来る」の方がしっくりきます。そう思えるように、自信が持てない状態でも一歩踏み出して参加できたことは、自分にとって一つの経験になりました。

「やればできる」がすんなり届く子もいれば、そこにひっかかりを覚える子もいる。両方の声を受け止めながら、キャンプの場そのものが対話的にアップデートされていく感覚があります。

Q. 現在発行しているオープンバッジについて、教えてください。

現在、まるオフィスがオープンバッジファクトリーで発行しているのは、以下のようなキャンプの参加証です。

  • 「01ワークキャンプ 2026年3月輪島参加証」(32時間、石川県輪島市・能登復興支援)
  • 「ちょいワークキャンプ 2026年3月秩父参加証」(8時間、埼玉県秩父郡・子ども支援)
  • 「ちょいワークキャンプ気仙沼 参加証」「ちょいワークキャンプ能登 参加証」 ほか

これは内閣府SIP第3期「多指標・多観点・多視点による評価・認証システムの開発」研究の一環で、東北学院大学の稲垣忠教授との連携のもと取り組んでいるものです。バッジは国際標準規格に基づくデジタル証明書として、改ざん不可の形で発行され、SNSや電子ポートフォリオに貼り付けて活用できます。

現状、バッジを発行しているのはほとんどが東京・仙台の通信制の子たちです。都市部のほうが通信の子どもの数が相対的に多いですし、「ちょっと気仙沼や能登に行ってみよう」と一歩踏み出しやすい、という面もあるようですね。

Q. オープンバッジについて、率直な現在地を教えてください。

正直に言うと、まだ「発行するところ」まではできているけれど、活用しきれていない、というのが現在地です。振り返りシートを書いてくれた高校生にバッジを発行する、というオペレーションはオリエンテーションで説明もして回っていますが、その後どう使ってもらうか、どう伝えるか、というところに大きな課題感があります。

一方で、方向性は見えてきています。バッジが「手元に溜まっていく」「コレクトされていく」感覚は、彼らの自信を可視化するうえで、すごく大事なんじゃないかな、と。先ほどの2回目参加の子の変化のようなものを、丁寧に積み重ねていく。その手伝いをオープンバッジがしてくれたらと思っています。

課題として感じているのは、正直「高校生に対して、どうやったらもっと活用しやすいものにできるのか」というところ。定着したアプリならサクサク使う世代ですが、オープンバッジという新しい仕組みを、彼らの日常に自然に馴染ませていく工夫は、これから一緒に考えていきたいところですね。

Q. これからオープンバッジに期待していることは?

高校の単位との連携ができると良いなと思っています。

全日制の高校で「ボランティア活動をしたら単位を認める」という制度がある学校もあるので、ちょいワークキャンプでの活動を単位として認定できないか、キャンプの前後にちょっとした授業をお邪魔することで一つの授業にしてしまえないか、といった議論をこれから深めていきたいです。

感覚としては、大学の単位取得に近いのかもしれません。高校生たちが自分で単位を集めるように、オープンバッジを集めていく。それが進学やキャリアにつながっていく。そういう構造ができれば、参加する「オフィシャルな理由」にもなりますし、保護者や学校にも堂々と示せるようになります。

多様な学びカンファレンスに集まる皆さまの中には、多様化学校(不登校特例校)や、通信サポート校、フリースクールに関わる方もいらっしゃると思います。在籍・出席・単位認定のあり方に悩まれている現場は本当に多い。オープンバッジのような「学校の外の学び」を可視化する仕組みが、その一助になれる可能性は十分にあると思っています。

Q. ベンダーや企業がオープンバッジを提案するとき、現場としてはどんな視点を持ってほしいですか?

企業側はどうしても「ものを売る視点」で考えてしまいがちですが、現場としては、そこよりも「バッジを持った子が、その後どう動けるようになるか」の設計まで一緒に考えてもらえるとありがたいですね。

発行して終わりではなく、そのバッジがどう次のチャンス(進学・就職・地域での活動)に接続するのか。そのための会話や場が、地域の中でつくれるのか。ベンダーさん・現場・自治体・学校が一緒に絵を描けるパートナーシップが、これからの多様な学びの現場には必要だと感じています。

Q. 最後に、メッセージをお願いします。

「地域での探究的な学び ⇔ 越境して利他体験。この往還を『オープンバッジ』で促進する。」——これが、僕が今いちばん伝えたいことです。

学校の外の学びも、その子の未来につながる証明になる。通信に転籍して、能力やコミュニケーション力を持て余している子がたくさんいる。ただ、彼らが本当に必要としているリアルな体験と、それを可視化する仕組みが、まだ社会として足りていない。

参加者の声にもあった、「二泊三日なので、思っているより参加のハードルは高くありません。生活習慣が乱れていても、少し不安があっても、なんとかなると思います!なので、完璧な状態で参加しようとしなくても大丈夫です。」(大学2年生)——この一言に、僕らが届けたい世界がぎゅっと詰まっています。

「やればできる、なんとかなる」——これを、一人でも多くの10代に、地域と一緒に届けていきたいと思っています。気仙沼のやり方が、そのまま他の地域に当てはまるわけではないと思いますが、産官学の座組と予算のつくり方、名前のついていない層への向き合い方、そしてオープンバッジの活用の模索——これらの現在地を、8月30日の会場でも、共有できたら嬉しいです。

話し手プロフィール

加藤 拓馬(かとう たくま) 一般社団法人まるオフィス 代表理事/社会教育士/宮城県社会教育委員(3期目)/気仙沼学びの産官学コンソーシアム プロジェクト統括官

大学卒業時の2011年、東日本大震災を機に気仙沼へ移住。2015年に一般社団法人まるオフィスを設立。「10代が『夢中』を見つけられる社会」をビジョンに、地域と学校をつなぐ社会教育の実践を続けている。

NHK総合サタデーウォッチ9(2022年9月24日 全国放送)、ベネッセ「VIEW next 2022 vol.1」、河北新報、大正大学地域構想研究所「地域人」No.67など、メディア掲載多数。

一般社団法人まるオフィス

2015年設立/メンバー12名/ 公式サイト: https://maru-office.com/

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